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Thread (1103 ) -- ヒト卵子でゲノム編集!
No. 2282--べ.
No. 2282 (2017/08/03 12:37) べ

オレゴン健康大学のMitalipovさんのところからはこれまでにもいろいろと挑戦的な仕事が発表され ていますが、今回はヒト卵子における遺伝子編集にCRISPRシステムを用いて成功したという論文が発表されました。DP.Wolfさんもチームの一員ですが、韓国、中国などとの共同研究で日本人研究者も二人含まれていました。 http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature23305.html#contrib-auth

ヒト卵子での遺伝子編集の試みは中国での研究が既に報告されているにもかかわらずなぜ今回Natureに掲載されたかというと、この論文ではゲノム編集の効率がかなり改善されていることと遺伝子編集に関する新手法ともいえる内容が示されているので、まだ完全ではないにしても将来のデザイナーベイビーへの可能性が示されたと評価されたのではないかと思います。

この論文では MYBPC3の変異がヘテロに出現する系で実験しています。ヘテロを治療するのならわざわざ遺伝子編集などしなくても卵子を選別するだけで解決しますが、それはまあ置いておきましょう。

ICSIのときに何かDNAを混ぜておくとトランスジェニックマウスができますが、彼らはそれと似た発想?でICSIで受精卵を作り、そのときにCRISPRタンパク質とgRNAを同時注入して遺伝子編集を試みたところ72%(42/58)が正しいDNAを持っていたと書かれています。ただしMYBPC3+/-のヒトからの精子をICSIするという実験なので50%の受精卵はもとも正常だったはずなので72%から割り引く必要があります。

正確にゲノムが編集できた数を測定するにはテンプレートとして導入するシングルストランドオリゴDNA(ssODN)に含まれるアミノ酸のコードを工夫しておけばわかるはずです。なぜ正確な数が測定できなかったかというと、意外にもゲノム編集に加えたssODNは修復のテンプレートとして使われず、反対側にある正常アレルを鋳型にした修復が起こっていたからということでした。

たとえばiPSなどの場合CRISPRシステムは基本的に細胞のもつnon­homologous end­joining (NHEJ)のメカニズムを利用することによって遺伝子を編集しhomology­directed repair (HDR)が使われることはまれであると言われています。ところが今回彼らが見つけたようにzygote中ではNHEJではなく主にHDRが機能しているようです。

IVFやICSIはまず動物で実証され、そのあとヒトでも実施されるという流れでした。この論文に示されたZygoteではHDRが主流を占めるというのはヒトから動物へ還元されるこれまでと逆のパターンになっているのではないかと思います。マウスの受精卵を用いた遺伝子編集は多用されていますが、ICSIと同時にというのはこれまでなかったように思います。マウスでモザイクを減らすには受精卵へのインジェクションを早い時期に済ませたほうがいいということを示していると思います。 In vivoではマウスの受精卵は数時間にかけて徐々に増えてくるので採卵した卵子が個々に受精した時間は多いに異なります。この差を少なくするにはIVFで受精卵を取ってできるだけ早めに打つなどを試みるといいのかもしれません。

この論文ではオフターゲットになりそうなところをシークエンスした結果や、CRISPRタンパク質の不安定さなどを根拠にオフターゲットは問題にならないだろうと推察されています。ssODNが卵子のなかでどのくらい安定なのか知りませんがICSIと同時にDNAを投与したのであれば、この論文に示された卵子のなかにトランスジェニックとなったものが存在していた可能性もあるのかなと思いました。

いずれにしてもデザイナーベイビーへの道は一歩ずつ前進しています。2045年と予想されているAIが人知を超える日とデザイナーベイビーの誕生とどちらが先に実現されるんでしょう? 多分デザイナーベイビー?


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