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Thread (1107 ) -- 化合物添加により体細胞核移植の効率を上げる方法
No. 2287--宮本. No. 2288--べ. No. 2291--宮本.
No. 2287 (2017/12/27 06:16) 宮本

初めての投稿失礼いたします。以下、少し前の私達の論文ですが紹介させて頂きます。岡部先生、紹介の機会を与えて頂きありがとうございます。

雑誌名:「Biology Open」 論文名:Reprogramming towards totipotency is greatly facilitated by synergistic effects of small molecules     (小分子の相乗効果により全能性獲得に向けた初期化が大幅に促進する) 著 者:Kei Miyamoto*, Yosuke Tajima, Koki Yoshida, Mami Oikawa, Rika Azuma, George E Allen, Tomomi Tsujikawa, Tomomasa Tsukaguchi, Charles R Bradshaw, Jerome Jullien, Kazuo Yamagata, Kazuya Matsumoto, Masayuki Anzai, Hiroshi Imai, John B Gurdon, and Masayasu Yamada* アドレス:http://bio.biologists.org/content/6/4/415.long

 体細胞クローン技術の発明当時は、クローン産仔が誕生する割合(クローン効率)は極めて低かったです(通常1%未満)。これは体細胞核が卵子内で初期化される際にさまざまな不具合が生じ、不完全な初期化しか誘導されないことに起因します。初期化の不具合を改善し、低い成功率を向上させる試みは世界中で行われ、若山先生や小倉先生らのグループを中心に、クローン効率向上に働く多くの重要な因子が発見されてきました(HDAC inhibitors, Xist, H3K9me2/3, Latrunculin A, etc)。その中でもマウスクローン胚を核移植直後からヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(トリコスタチンA)を添加した培地で培養することによって、クローン効率が5%程度に上昇することが示されました(Kishigami et al., BBRC. 2006 340:183-9; Rybouchkin et al., Biol Repod. 2006, 74:1083-9)。最近、ビタミンCの培地中への添加によってもマウスクローン効率が最大5%程度まで上昇することが報告されています(Mallol et al., PlosOne 2015, 10:e0120033)。しかし、これらの化合物を同時に培地中に添加することによる顕著な相加・相乗効果は確認されていませんでした。

 京都大学大学院の山田、近畿大学の宮本、ケンブリッジ大学のガードンらの共同研究グループは、培地中への添加のみによって簡易にクローン効率を向上させる化合物の探索を行いました。単独使用でクローン効率の改善が確認されている(1)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(トリコスタチンA)及び(2)ビタミンCに着目し、それらが相乗的にクローン胚の発生を促進する条件を、処理濃度、処理時期について詳細に検討しました。通常マウス胚の培養に使用される培地には、ビタミンCの効果を阻害する恐れのある微量の金属イオンを含有するウシ血清アルブミンが含まれていることから、本実験ではイオン交換樹脂で脱イオン化したウシ血清アルブミンを添加した培地を使用しました((3)脱イオン化ウシ血清アルブミン)。

 検討の結果、マウスクローン胚を、核移植直後に行う卵子の活性化刺激の開始と同時にトリコスタチンAを添加した培地で8時間培養し、その後ビタミンCを含む培地で7時間培養した区において、それぞれの化合物の単独処理区や同時処理区、無処理対照区に比べてクローン効率が大幅に向上し、それぞれの化合物の相乗効果が確認され、健常なクローンマウスが約15%の効率で誕生しました。さらに、ウシ血清アルブミンの脱イオン化処理は発生率向上に必要であることも示しました。即ち、3種類の化合物の組み合わせと適切な処理時期によって、クローン胚の発生に対する相乗効果が生まれることを発見しました。

 また、3種類の化合物で処理したクローン胚の遺伝子発現の網羅的な解析によって、従来の体細胞核移植技術による初期化の際に活性化に失敗する遺伝子の多くが、この方法では正常に転写活性化していることを確認しました。クロマチン修飾及び遺伝子発現レベルで3種類の化合物が初期化を促進することもわかりました。

 今回報告している方法は化合物の添加のみで発生率を上昇させることに加えて、細胞融合をセンダイウイルス膜タンパク質で行うことで、体細胞核移植に必要な技術的なハードルも少し下げることが出来たと考えています。詳細な方法につきましては、近畿大学のグループが現在ビデオジャーナルでの掲載を準備しております。他の動物種のクローン作出や、クローン技術を用いた体細胞からの遺伝子組換え動物の作出に本技術が使用できるように現在検討を重ねております。


No. 2288 (2017/12/27 07:46) べ

De-ionized BSAって何?と思いましたが、BSAには重金属も含まれるんですね。でもそれがワルサをするというのは重金属がBSAからビタミンCに移行するってことですよね?それでビタミンCの働きが無くなるってことはビタミンCが細胞内の重金属をキレートしている可能性もあるということなんでしょうか?もしビタミンCの還元作用ではなくて、キレート作用が効いているようならメタロチオネインのmRNAを入れても効果があるかもしれませんね。

IVFの系ではアルブミンは精子からコレステロールを抜き取る役目があるので必須ですが、アルブミンのこの作用はサイクロデキストリンで代用できます。クローン胚の培養にもアルブミンが必要なのはどういう役割なのでしょう?

若山先生のグループでは糞便に含まれる細胞からクローンを取る!というプロジェクトが走っているのはこの欄で以前Ferheenさんが紹介してくれました。その難題に現在もチャレンジ中であるという発表が今年の分生であったそうですが、この15%法だと万一が千一になるくらいのインパクトがあるような気がしますけどねえ。

地道な努力でいろんな因子が分かってきますね。足の裏の細胞でも4因子でiPSになれるわけですから、初期化もあとひとつふたつの因子を加えると15%から30%,60%となっていくのもあながち夢物語ではないのかもしれません。


No. 2291 (2018/01/10 03:01) 宮本

ビタミンCによる細胞内重金属のキレート効果の可能性はあるかと考えております。メタロチオネインのmRNA injectionとはとても面白いideaですね。この実験をうまく組み合わせることによって、重金属がクローン胚に与える悪影響もわかりそうです。ありがとうございます。

クローン胚におけるアルブミンの役割も興味深いところです。山田先生の論文では、脱イオン化BSAを直接クローン胚にinjectionすることによって発生率が上昇するとの報告もあり(J Reprod Dev. 2015 Dec; 61(6): 503–510)、intracellularの役割も考えられます。どのようにして細胞内に取り込まれるか等、解決すべきquestionは多くありそうですが、dBSAとBSAの違いによって差が生じることは確かですので、何らかの重要な要素がそこにあることは間違いなさそうです。


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