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Thread (1179 ) -- ES細胞は万能細胞だった!????
No. 2419--べ. No. 2420--AOKI. No. 2421--べ. No. 2422--AOKI. No. 2423--べ.
No. 2419 (2023/04/11 11:26) べ

この分野のことはよく知らないのですが、カニクイザルのES細胞から胚盤胞様のものを作りそれを移植すると(途中で消失するものの)着床の初期状態は成立したそうです。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37028403/

私がES細胞を使っていた頃は「いい仔牛血清」を見つけてそれを添加したDMEMで培養するだけでした。ES細胞もICM由来のものしかなかったので、トロフォブラストには分化しないというのが常識でES細胞とトロフォブラスト幹細胞を組み合わせると胚盤胞ができるかもしれないということでいろいろな試みがあったと思います。

でもいまではES細胞の培養にいろんなインヒビターやらKnockOut Serum Replacement(KOSR)やら5iLAFやら4CLなどをいれ、メディウムも絨毛幹細胞培地(TSM)とか低芽球分化培地(HDM)とかかなり複雑になっているようです。これらを組み合わせながらcyES(cytotrophoblast(絨毛細胞))を培養すると胚盤胞様の細胞塊(写真を見る限り胚盤胞そっくり)ができて、それを移植すると着床したように見えるという報告でした。

cyES細胞から誘導される胚盤胞様細胞塊から子供が生まれてくればそれらは遺伝子がみな同じなので新たなクローン動物作製法ということになりますが、今回は着床しても生まれるところまではいかなかったようです。

大雑把な捉え方をするとES細胞やiPS細胞は培養に工夫を凝らすと ①生殖幹細胞に分化しそこから精子や卵子を形成させる事もできるし(斎藤先生や林先生のお仕事) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23042295/ ② 今回のようにES細胞から胚盤胞様の細胞塊を作り、クローンを形成する方向にも進める可能性があるということになります。

大昔の話ですが、植物からはカルス細胞ができてこれは「万能性(totipotency)」細胞と言ってもいいが、動物からのES細胞は万能ではないということで「多能性(multipotency)」と呼ばなければいけないという話がありました。でも今日の研究の発展を見るとES細胞を万能性細胞と呼んでもいい時代が迫りつつあるような気がします。


No. 2420 (2023/04/12 01:27) AOKI

 いつも大変興味深い論文の紹介を行ってくださり、ありがとうございます。「べ」先生の高い見識にはいつも尊敬の念を抱いておりますが、今回の配信で一点疑問に思ったことがあります。

 それは表題と最後の一文「今日の研究の発展を見るとES細胞を万能性細胞と呼んでもいい時代が迫りつつあるような気がします」についてです。ES細胞に体内で実際に起こっていないようないろいろな処理をしてトロフォブラストに分化したからと言って、万能細胞だとは言えないと思います。もしそうであれば、今後何らかの特殊な処理をして体細胞からICMやトロフォブラストができたら、体細胞もすべて万能細胞となります。実際、STAP細胞の発表があったとき(実際には偽りであったようですが、まだそれが真実だと思われていた時期に)、誰も体細胞が万能細胞あるいは全能性を持つなどとは言っていなかったと思います。  つまり、今回ご紹介頂いた論文はあくまで「ある特殊な条件下でES細胞に全能性を持たせることができた」ということだと思います。

 尊敬するべ先生の一文にケチをつけるような感じになってしまったのであれば申し訳ないのですが、万能細胞や全能性についての認識が結構人によって異なっているようですので、私の見解を書かせていただきました。


No. 2421 (2023/04/12 08:25) べ

AOKIさん、蜘蛛の巣が張っているMLにコメントを頂いてありがとうございます! 素直にうれしいです!(^^)

「全能性についての認識が結構人によって異なっている」というのは確かですね。何もしなくてもいいものを全能性と呼ぶのであって、いろいろと操作してはじめて「組織や器官だけでなく、胎盤などの外胚膜組織も形成できる」というのは全能性とは言わないというご意見はごもっともだと思います。それで一応安全のためにタイトルには?を4つ付けておいたのですが、、、、

頭の体操として、もしもですが、ES細胞をいろんな条件で培養しているうちに4セルの割球の一つみたいなのができた場合はどうなのでしょう?この場合、広義には「ESから全能性細胞ができた」と言ってもいいような気がします。(この場合も狭義には操作してできた細胞は全能性細胞とは言えないという解釈もあり得ると思います。そんなのができるわけないから考える必要は無いのかもしれませんが、、、、)

大嘘を付くことで有名な、ChatGPT4ともdiscussionしてみました。 ChatGPT4により示された全能性の定義を下記に記します。

***** 全能性(totipotency)は、細胞が体内のすべての細胞タイプに分化できる能力を指します。全能性を持つ細胞は、組織や器官だけでなく、胎盤などの外胚膜組織も形成できる特徴があります。この点で、全能性は先に説明した万能性(pluripotency)とは異なります。

全能性を持つ細胞は、哺乳類の発生初期において最も顕著に見られます。例えば、受精卵や初期の胚発生段階にある細胞(2〜4細胞期)は全能性があります。これらの細胞は、個体全体(体細胞と胎盤組織を含む)を形成する能力を持っています。

全能細胞は、生物の発生や再生医療、幹細胞研究などの分野で非常に重要な役割を果たしています。しかし、全能細胞は通常、発生初期にしか存在しないため、研究が難しく、倫理的な問題も存在します。


No. 2422 (2023/04/12 11:09) AOKI

べ先生

 お返事いただき感激しております。?を4つ付けた先生の意図が理解できました。

 まず、用語についての私の不明をお詫びいたしたいと思います。「万能細胞」とはtotipotencyではなくpluripotencyを持つ細胞(ICMやES細胞)のことだったのですね。ただ、最初の先生の投稿の内容で、トロフォブラストにも分化できる細胞を「万能細胞」とされていましたし、また、ご紹介頂いた論文でもtotipotencyという用語を使用しておりましたので、「万能細胞」をtotipotentな細胞(全能性を持つ細胞)の意味と解釈しておりました(そのように解釈しないと、「ES細胞は万能性細胞だった」はトートロジーになってしまいます)。そこで、この件はtotipotencyのこととして話を進めさせていただきたいと思います。

 それで、ご質問についてですが、「ES細胞をいろんな条件で培養しているうちに4セルの割球の一つみたいなのができた場合」は先生のお考えと同じで、「ESから全能性細胞ができた」といってよいかと思われます。この点は、ご紹介頂いた論文でも同様のことが言えると思います。ただしだからといって「ES細胞は全能性細胞である」とは言えないと思います。つまり、あくまで「ES細胞が全能性を獲得した」あるいは「ES細胞が全能性細胞に変わった」(ES細胞→全能性細胞)ということであって、「ES細胞は全能性細胞」(ES細胞=全能性細胞)というわけではないということです。

 このことと話が少し異なっておりますが、ほかに全能性についての話題で私が気になっていることとして、PGCを全能性細胞と呼ぶ人がいるということがあります。つまり、PGCから全能性を持つ受精卵ができるので、PGCは全能性があるという理屈です。ただ、この理屈を認めるとPGCはICMから生じますので、ICMも全能性があることになります。また、少なくとも生体の中ではPGCからは精子かあるいは卵しかできませんので、それ単体では全能性を持つ受精卵はできません。ただいくつかの遺伝子をいじれば卵だけでもその後の個体が生じますので、やはり何らかの(本来生体で起こってない)操作を加えてその細胞本来の性質を変えることで全能性を獲得しても、元の細胞に全能性があるといえないのではないかと思われます。また、それを認めるといろいろな概念が混乱してしまうのではと危惧しております。そのため、あえて意見を書かせていただきました。


No. 2423 (2023/04/12 10:40) べ

たとえES細胞が全能性細胞に変わることがあったとしても、ES細胞を全能性細胞と呼ぶのは間違っている。というご指摘はごもっともだと思います。

最初の私の投稿の末尾を「ES細胞から万能性細胞を作り出せる時代がせまりつつある」と訂正します。楽しいdiscussionをありがとうございました。


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